感染症の治療

2024-10-21抗ウイルス薬

インフルエンザ

インフルエンザ

抗インフルエンザ薬の適応の考え方も基本的にはCOVID-19と変わりません。ポイントは以下になります。 

ハイリスク患者をしっかり見極め、投与を検討しましょう 
抗インフルエンザ薬には伝播予防効果もあり1)、ハイリスク患者に接する家族や医療者も適応となります 
ハイリスク患者でなければ、症状改善を約24時間ほど早めるかもというデータから、発症後48時間以上であれば、投与は検討しないという考えが基本となります 
 

<ハイリスク患者> 
近年のメタアナリシスでは、65歳以上の高齢者でも抗インフルエンザ薬投与では入院を減らさなかったとなっています2)。論文によりばらつきがありますが、現時点では、ハイリスク患者でも、症状の期間や肺合併症のリスクを減らすかも程度で、入院リスクも減らすかもしれないし、減らさないかもしれない程度となっています。 

 
<非ハイリスク患者> 
非ハイリスク患者では、検査精度の問題や治療薬の効果から、「検査もしないし薬ものまない」という選択肢があることを上手に説明できるようになることも重要です。患者説明に東洋経済の記事を参考にしてみてください(間違いだらけ!インフルの正しい「怖がり方」 「検査もしないし薬ものまない」という選択肢3))。 

 

【ハイリスク患者】 
COVID-19と違い、乳幼児がハイリスク患者となります。 

①5歳未満の子ども,とくに2歳未満  

②65歳以上 

③妊婦,産後2週間以内(妊娠損失含む。妊娠損失:流産,死産,子宮外妊娠,奇胎妊娠など)  

④以下の基礎疾患を有する患者 ・喘息などの肺疾患(とくに過去1年以内に全身性のステロイド薬投与歴がある) ・心血管系の疾患(先天性心疾患・うっ血性心不全・冠動脈疾患。高血圧は除く) ・担癌患者 ・慢性腎不全 ・慢性肝疾患 ・糖尿病 ・鎌状赤血球症あるいは他の異常ヘモグロビン症 ・HIV感染症(とくにCD4<200),固形臓器・造血幹細胞移植,免疫抑制薬を投与されている炎症性疾患(ステロイド長期使用など) ・神経疾患,痙攣,認知異常のために,気道分泌物のコントロールに問題がある患者  

⑤BMI>40の病的肥満 

 

【抗インフルエンザ薬】 
日本は世界で最も多くの抗インフルエンザ薬が処方できる国です。そのメリットデメリットを理解し使用することが重要になります。たくさんの抗インフルエンザ薬がありますが、最も質の高いデータがあるのはオセルタミビルになります。ハイリスク患者ではオセルタミビルを確実に投与することが重要です。それ以外は、その剤型、投与方法などから適応を考える場合があります。 

 

■オセルタミビル 

薬価:111.6円、1治療当たりの薬価:1116円(後発品) 

■ザナビビル 

 薬価:120.6円/ブリスター、1治療当たりの薬価:1206円(先発品のみ) 


■吸入1回というラニナビルの魅力と効果 

 薬価:4241.5円/瓶(160㎎)、1治療当たりの薬価:4241.5円(先発品のみ) 


吸入1回で良いラニナビルは、臨床試験の多くは,わが国を中心として実施されたもので、成人の二重盲検ランダム化試験(RCT)では,20歳以上のインフルエンザ患者996人において,ラニナミビル40mgまたは20mgの単回吸入と,オセルタミビル(75mg,1日2回,5日間内服)との効果が比較されています。症状軽快までの期間の中央値は,ラニナミビル40mg群で73.0時間,オセルタミビル群で73.6時間で、非劣性が示されました4)。しかし,海外で実施されたBiota社主導の第Ⅱ相試験では、ラニナミビル40mg群で102時間(81~115時間),プラセボ群で104時間(93~141時間)で(P=0.25)症状軽快までの期間には有意差がみられませんでした。 


■内服1回というバロキサビルの魅力と効果 

 薬価:2438.8円/20㎎錠、1治療当たりの薬価:4877.6円(40㎎/day使用の場合、先発品のみ) 

 

バロキサビルもラニナビル同様に1回投与でしかも吸入とちがい確実に投与可能な内服という特徴もあり魅力的です。しかし、バロキサビルがオセルタミビルに優位にその効果が優れるという研究は残念ながらありません。2018年にNEJM誌に掲載されたCAPSTONE-1 試験は、健康で基礎疾患がない12~64歳の患者を対象に主に安全性を評価したもので、オセルタミビルに非劣性であることが示されています5)。重症化および合併症を起こしやすいリスク要因をもつインフルエンザ患者を対象とした第 III 相臨床試験(CAPSTONE-2)、有効性でオセルタミビルに非劣性であることが示されました6)。しかし、他の抗インフルエンザ薬同様にこれまでに示されているのは、オセルタミビルと比較して、安全性・有効性ともに非劣性であるということです。バロキサビルでは耐性化の懸念があります。バロキサビル投与後にアミノ酸変異のあるウイルスが12歳未満で23.4%、12歳以上では9.7%で検出されたと報告されています。 

 投与方法の魅力はありますが、薬剤耐性は菌だけではなくウイルスも同じです。抗菌薬適正使用と同じく、大切な抗ウイルス薬の適正使用を考える必要があります。

参考文献

1)Uyeki TM, Bernstein HH, Bradley JS, et al. Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America: 2018 Update on Diagnosis, Treatment, Chemoprophylaxis, and Institutional Outbreak Management of Seasonal Influenzaa [published correction appears in Clin Infect Dis. 2019 May 2;68(10):1790. 

2)Hanula R, Bortolussi-Courval É, Mendel A, Ward BJ, Lee TC, McDonald EG. Evaluation of Oseltamivir Used to Prevent Hospitalization in Outpatients With Influenza: A Systematic Review and Meta-Analysis [published correction appears in JAMA Intern Med. 2024 Jan 1;184(1):121. 

3)東洋経済、間違いだらけ!インフルの正しい「怖がり方」 「検査もしないし薬ものまない」という選択肢、https://toyokeizai.net/articles/-/147605 

4)Watanabe A, et al:Clin Infect Dis. 2010;51 (10):1167-75. *)Hayden FG, et al., Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents, N Engl J Med 379: 913-923, 2018 

5)Hayden FG, et al., Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents, N Engl J Med 379: 913-923, 2018 

6)Ison MG, Portsmouth S, Yoshida Y, et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2020;20(10):1204-1214. 

 

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