気候変動と感染症
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2024-10-21気候変動と感染症
気候変動と感染症
特徴
近年、気候変動が、さまざまな健康への脅威となりつつあります。
気候変動の健康への影響には多種多様なものがありますが、感染症への影響は、①水質への影響、②媒介生物の生態変化、の2つが感染症の変化の原因となります。世界保健機関(WHO)は、2022年11月に開催された第27回・国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)(2023年11月のCOP28の内容と差し替え予定)で「気候変動の影響で、2030〜2050年にかけてマラリアや下痢、栄養失調、熱ストレスにより、年間25万人の追加死亡が生じる」と予想しました。そして、気候変動による人々の健康への影響は今後益々増大・加速すると指摘しています1)。
気候変動の健康への影響には多種多様なものがありますが、感染症への影響は、①水質への影響、②媒介生物の生態変化、の2つが感染症の変化の原因となります。世界保健機関(WHO)は、2022年11月に開催された第27回・国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)(2023年11月のCOP28の内容と差し替え予定)で「気候変動の影響で、2030〜2050年にかけてマラリアや下痢、栄養失調、熱ストレスにより、年間25万人の追加死亡が生じる」と予想しました。そして、気候変動による人々の健康への影響は今後益々増大・加速すると指摘しています1)。
原因
1.水質への影響
洪水時に蔓延することの多い「水媒介性感染症」
①コレラ
海水中のプランクトンと共生して生息します。海水温が上昇するとプランクトンが増殖し、コレラ菌も増加します。また、降水量と気温の変化が、水中に自然分布するコレラ菌の生存と増殖に影響を与えるという報告があり2)3)、急激な河川の増水や洪水によって感染が広がります4)。
② 腸炎ビブリオ
海水表面温度20℃以上で検出率が増加し、海水温と集団感染が相関しています。海水温20℃の北限線が北上するにつれて、感染が広がる可能性があります。
①コレラ
海水中のプランクトンと共生して生息します。海水温が上昇するとプランクトンが増殖し、コレラ菌も増加します。また、降水量と気温の変化が、水中に自然分布するコレラ菌の生存と増殖に影響を与えるという報告があり2)3)、急激な河川の増水や洪水によって感染が広がります4)。
② 腸炎ビブリオ
海水表面温度20℃以上で検出率が増加し、海水温と集団感染が相関しています。海水温20℃の北限線が北上するにつれて、感染が広がる可能性があります。
2.媒介生物(ベクター)の生態変化
気温、降水量、蒸気圧が、ベクターの地理的な生息範囲の限界を決める因子となります。熱帯・亜熱帯地域の病原体やベクターは高緯度での温暖化が進めば、より高緯度に拡大することが予想されます。
蚊が媒介する「ベクター媒介感染症」
気候変動により、気温上昇が上昇し、蚊の個体数の増加、吸血活動が活発になります。ハマダラカ属の蚊によって伝播するマラリアやフィラリア症、デング熱、ジカウイルス感染症などは、これらの感染症は多くの国で今後も発生が増加すると予想されています5)。
19世紀までは 温帯地域・亜寒帯地域でも、マラリアは季節性に発生していましたが、現在、温帯地域の大部分にマラリアはいません。その理由として、蚊の繁殖地の農地転換、殺虫剤(DDT)使用、抗マラリア薬の使用という介入があったからと言われています。今後は温暖化や大規模自然災害などで、マラリア流行しやすい条件に変化すると“再発・再流行"の可能性があります。
蚊が媒介する「ベクター媒介感染症」
気候変動により、気温上昇が上昇し、蚊の個体数の増加、吸血活動が活発になります。ハマダラカ属の蚊によって伝播するマラリアやフィラリア症、デング熱、ジカウイルス感染症などは、これらの感染症は多くの国で今後も発生が増加すると予想されています5)。
19世紀までは 温帯地域・亜寒帯地域でも、マラリアは季節性に発生していましたが、現在、温帯地域の大部分にマラリアはいません。その理由として、蚊の繁殖地の農地転換、殺虫剤(DDT)使用、抗マラリア薬の使用という介入があったからと言われています。今後は温暖化や大規模自然災害などで、マラリア流行しやすい条件に変化すると“再発・再流行"の可能性があります。
3.人口の移動と集団生活
気候変動により人口が移動(集団移住)すると、免疫を獲得していない人が罹患リスクの高い地域へ移動する可能性があります。また、難民キャンプなどでは、麻しん、コレラなどがまん延します。そのような場所では、食料不足・質の低下、栄養不良となり、感染症に対する免疫が低下し罹患率や死亡率の上昇につながる可能性があります。
表)温暖化による感染症のリスク
媒介 | 感染症の種類 | ||
直接 | 狂犬病、パスツレラ、猫ひっかき病、トキソプラズマ、回虫 | ||
間接 | 媒介(ベクター) | 蚊 | 日本脳炎、マラリア、デング熱、ジカ、ウエストナイル熱、リフトバレー熱 |
ダニ | ダニ媒介脳炎、ライム病 | ||
げっ歯類 | ハンタウイルス症候群、レプトスピラ | ||
ノミ | ペスト | ||
巻貝 | 日本住血吸虫 | ||
環境 | 水系汚染 | 下痢症(コレラ、ビブリオ等) | |
土壌汚染 | 炭疽 | ||
動物性食品 | 肉 | 腸管出血性大腸菌感染症、サルモネラ | |
魚 | アニサキス |
4.生物多様性と気候変動
ヒトの感染症のほとんどは「人獣共通感染症」であり、病原体の維持やヒトへの伝播は、他の生物種が関係しています。例えば、米国東部にすむオポッサムという動物は、効果的に毛づくろいをして、96.5%のマダニ幼虫を除去するそうです。通常、動物に付着するダニは、吸血してライム病ボレリアを体内に取り込んで、ベクターの役割をはたしますが、オポッサムはマダニの幼虫のほとんどを除去してしまうため、ライム病は伝播しません。
一方、ネズミの様なげっ歯類は、マダニへの感染率が高く、ネズミは繁殖率が高いため、効率の良い保有宿主になりやすいです。ネズミは、廃墟・小さな森林・多様性の低い島等で増加し、生物多様性が低い地域では、ライム病発生率高いという報告があります。宿主となる動物のみが偏って繁殖しない生物多様性は、感染症のまん延を予防する上で重要です。日本でも、ライム病が報告されていますので、気候変動によって保有宿主のネズミ・あらいぐまなどが増えないように、ダニ媒介感染症にも今後注意が必要です。
一方、ネズミの様なげっ歯類は、マダニへの感染率が高く、ネズミは繁殖率が高いため、効率の良い保有宿主になりやすいです。ネズミは、廃墟・小さな森林・多様性の低い島等で増加し、生物多様性が低い地域では、ライム病発生率高いという報告があります。宿主となる動物のみが偏って繁殖しない生物多様性は、感染症のまん延を予防する上で重要です。日本でも、ライム病が報告されていますので、気候変動によって保有宿主のネズミ・あらいぐまなどが増えないように、ダニ媒介感染症にも今後注意が必要です。
プライマリ・ケアにおけるポイント
気候変動が抑制することに協力する(CO2を減らす)
・生活だけでなく、医療機関でのCO2削減
蚊などの媒介動物の居場所を作らない
浜松宣言について(リンク)
https://www.primarycare-japan.com/news-detail.php?nid=834
・生活だけでなく、医療機関でのCO2削減
蚊などの媒介動物の居場所を作らない
浜松宣言について(リンク)
https://www.primarycare-japan.com/news-detail.php?nid=834
参考サイト・文献
1) Health must be front and centre in the COP27 climate change negotiations: WHO
https://www.who.int/news/item/06-11-2022-health-must-be-front-and-centre-in-the-cop27-climate-change-negotiations
2) 小野塚大介: J. Natl. Inst. Public Health, 69 (5) 418-424,2020
https://www.niph.go.jp/journal/data/69-5/202069050004.pdf
3) 厚生労働省検疫所:洪水と感染症について
https://www.forth.go.jp/topics/2011/10181635.html
4) 西渕光昭:東南アジア研究,46(4),2009
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tak/46/4/46_KJ00005709419/_pdf
5) 安藤満:日本農村医学会雑誌, 38(2), 55-59,1989
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1952/38/2/38_2_55/_pdf/-char/ja
https://www.who.int/news/item/06-11-2022-health-must-be-front-and-centre-in-the-cop27-climate-change-negotiations
2) 小野塚大介: J. Natl. Inst. Public Health, 69 (5) 418-424,2020
https://www.niph.go.jp/journal/data/69-5/202069050004.pdf
3) 厚生労働省検疫所:洪水と感染症について
https://www.forth.go.jp/topics/2011/10181635.html
4) 西渕光昭:東南アジア研究,46(4),2009
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tak/46/4/46_KJ00005709419/_pdf
5) 安藤満:日本農村医学会雑誌, 38(2), 55-59,1989
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1952/38/2/38_2_55/_pdf/-char/ja
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