疾患別(プライマリ・ケア医が診る感染症)

2024-09-03蜂窩織炎・壊死性筋膜炎

蜂窩織炎

プライマリ・ケアにおける診察のポイント

高齢者のプライマリケアでは、蜂窩織炎や丹毒、褥瘡感染などの皮膚軟部組織の感染症に直面することが多いです。寝たきりや低栄養などのリスクがある一方で、オムツ管理などにより清潔を保持することが困難なことも要因となっています。
また、肝硬変、心不全、静脈・リンパ管のうっ滞、骨盤内腫瘍、術後など、下腿浮腫の原因があると蜂窩織炎を発症しやすくなっています。また、皮膚潰瘍、糖尿病、白癬の存在は病原菌へのバリアが十分ではなく、やはり蜂窩織炎の原因となります。
診察における最初のポイントは、病巣の拡がりと深さを見極めることです。発赤と熱感の範囲を確認し、さらにリンパ管を辿ってリンパ節の腫脹や圧痛がないかを確認します。
表層(皮膚)に限局しているのか、あるいは深部(筋膜、骨)にまで至っているのかを鑑別することは、在宅で治療できるかどうかを判断するうえで極めて重要です。自発痛が著明なときや進行が速いときは壊死性筋膜炎を疑い、外科治療が可能な病院へ紹介します。創部から膿性分泌物があり、ポケットを形成して骨に達している可能性があれば感染性骨髄炎を疑います。蜂窩織炎の診療は、これらを除外した後に始まるものと理解します。
動物に咬まれたり、引っかかれたりした後の感染は、一般的な蜂窩織炎とは起因菌が異なる可能性があり、動物ごとの特異的治療へと繋げます(動物咬傷のセクションを参照)。デルマトームに沿って片側性に発赤を認め、数日後に水疱が出現したときは、帯状疱疹を疑います。寝たきりの高齢者に片側下肢の腫脹と発赤を認め、漠然とした疼痛を訴えているときは深部静脈血栓症を除外します。局所の発赤と腫脹のみで発熱など全身症状が乏しいときは、感染症ではなく、虫刺症や接触性皮膚炎の可能性も考えられます。

原因微生物の推定

蜂窩織炎の病原微生物は、ほとんどがβ溶血性レンサ球菌もしくは黄色ブドウ球菌です。レンサ球菌の細胞壁多糖体抗原性による分類では、A群レンサ球菌(GAS;主にStreptococcus pyogenes)、B群レンサ球菌(GBS; 主にStreptococcus agalactiae)、G群レンサ球菌(GGS; 主にStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis)の3菌種が重要です。主にレンサ球菌は、ブドウ球菌と比べて発赤の境界が明瞭で、拡がりが早く、リンパ管炎を伴いやすい傾向があります。
糖尿病や悪性腫瘍、末梢循環不全など基礎疾患の状態によっては、蜂窩織炎の起因菌が多彩になることがあります。抗菌薬使用歴の豊富な在宅患者や施設入所者では、MRSAなど薬剤耐性菌の可能性が高まり、在宅での治療に難渋することが多いです。そのため、局所からの浸出液や排膿があるときは、グラム染色、培養検査の提出により菌を同定する努力が求められます。

グラム染色

創部からの浸出液や排膿があるときは、グラム染色ができるのであれば実施します。創部培養では起因菌と汚染菌を区別できませんが、グラム染色であれば、単一の菌が多量に存在し、白血球による貪食像を伴うなど、起因菌を同定できることがあります。
ブドウの房状にグラム陽性菌を認めるときは、黄色ブドウ球菌と考えられます。培養提出してMRSAでないことを確認します。連鎖状のグラム陽性菌を認めた場合はレンサ球菌と考えられますが、悪臭があるときは嫌気性菌の可能性もあります。
サイズが小さいグラム陰性桿菌を認めるときには、緑膿菌が起因菌である可能性があります。培養を提出するとともに、抗緑膿菌活性のある抗菌薬を選択しますが、この場合は在宅での治療にこだわらない方が良いと考えられます。

創部培養

創部から浸出液や排膿を認めるときは、できればグラム染色を実施したうえで、培養検査を提出します。抗菌薬使用歴の豊富な高齢者や施設入所者に多いMRSA感染を見抜くこと。そして、糖尿病や悪性腫瘍など免疫不全患者に多い緑膿菌感染を見抜くことが目的です。
ただし、創部培養によって起因菌を正しく分離することは困難です。下肢創部の表層から採取した検体の培養による診断精度は、メタアナリシスにおいて感度49%、特異度69%と高くはありませんでした。
できるだけ創部を洗浄もしくはデブリードメントしてから深部より検体を得るようにします。なお、浸出液も排膿もない創部ぬぐい液の培養提出は、起因菌でない常在菌を分離して混乱するだけなので推奨されません。
潰瘍を伴う軟部組織の感染症について、抗菌薬への反応が良くないときには、MRSAなど耐性菌の可能性もありますが、非結核性抗酸菌によることも考えられます。よって、一般培養に加えて抗酸菌培養の提出を検討します。

血液培養

蜂窩織炎では、菌血症の頻度は高くなく、血液培養を提出しても病原微生物が分離されないことが多いです。このため、軽症と考えられるときは、血液培養を提出する必要はありません。
一方、悪寒戦慄を伴うなど全身症状が強い場合には、できるだけ血液培養を提出しますが、敗血症や骨髄炎など深部感染の可能性もあるため、精査できる医療機関へと患者を移すことを検討します。
なお、血液培養が陽性であるときは、蜂窩織炎としては重症であり、感染性心内膜炎を除外する必要が出てきます。こうした状況では、一旦は入院治療への切り替えを検討します。

ASO (Anti-Streptolysin O)

ASOとは、β溶血性レンサ球菌の溶血毒素に対する特異抗体です。ASOはIgGであるため、発症直後には上昇しないことが多いですが、筆者の経験では約1週間で陽転化することが多いです。このため発症から時間が経っている場合には、ASOを測定することでβ溶血性レンサ球菌が起因菌であることを推定できる可能性があります。ただし、ASOはA群、C群、G群の中和抗体であるため、B群レンサ球菌が起因菌の場合には上昇しないことに注意します。

超音波検査

蜂窩織炎が深層に膿瘍を形成している場合には、抗菌薬のみでの治癒は困難であるか、長期にわたる投与が必要になります。局所に液状のものを触知するときや、治癒過程が思わしくないときなど、ポータブルエコーで膿瘍の有無を確認します。膿瘍があれば積極的にドレナージを行うか、安全に実施できる医療機関に紹介します。

外来での治療戦略

軽症であれば、経験上セファレキシン(L-ケフレックス顆粒®)の経口投与で治療できます。黄色ブドウ球菌(MRSAを除く)とレンサ球菌に対して感受性が期待できます。グラム染色や創部培養によりレンサ球菌と同定されているとき、ASOが上昇しているときは、アモキシシリン(サワシリンカプセル®)での治療が可能です。
一方、MRSAの関与を疑う状況では、クリンダマイシン(ダラシンカプセル®)、ドキシサイクリン(ビブラマイシン錠®)、ST合剤(バクタ錠®)の経口投与で治療します。このうち、クリンダマイシンとドキシサイクリンは肝代謝型であり、腎機能低下時にも用量調整は不要です。
これら3剤の中で、グラム陽性菌への活性と組織移行性においてクリンダマイシンが優れています。ドキシサイクリンもおおむねカバーしますが、活性がやや弱いため、他の薬剤が使えないときや、再発予防の長期投与として選択されることがあります。一方、ST合剤の活性は悪くないですが、レンサ球菌への感受性が不確実です。また、腎機能の低下がある患者では、電解質異常のリスクがあるため、使いにくいことがあります。
糖尿病患者の軟部組織感染など緑膿菌の関与が否定できない場合は、レボフロキサシン(クラビット錠®)の経口投与となります。ただし、MRSAには感受性があると出ていても効かない場合があるため、注意が必要です。
軽症であれば、経験上セファレキシン(L-ケフレックス顆粒®)の経口投与で治療できます。黄色ブドウ球菌(MRSAを除く)とレンサ球菌に対して感受性が期待できます。グラム染色や創部培養によりレンサ球菌と同定されているとき、ASOが上昇しているときは、アモキシシリン(サワシリンカプセル®)での治療が可能です。
一方、MRSAの関与を疑う状況では、クリンダマイシン(ダラシンカプセル®)、ドキシサイクリン(ビブラマイシン錠®)、ST合剤(バクタ錠®)の経口投与で治療します。このうち、クリンダマイシンとドキシサイクリンは肝代謝型であり、腎機能低下時にも用量調整は不要です。
これら3剤の中で、グラム陽性菌への活性と組織移行性においてクリンダマイシンが優れています。ドキシサイクリンもおおむねカバーしますが、活性がやや弱いため、他の薬剤が使えないときや、再発予防の長期投与として選択されることがあります。一方、ST合剤の活性は悪くないですが、レンサ球菌への感受性が不確実です。また、腎機能の低下がある患者では、電解質異常のリスクがあるため、使いにくいことがあります。
糖尿病患者の軟部組織感染など緑膿菌の関与が否定できない場合は、レボフロキサシン(クラビット錠®)の経口投与となります。ただし、MRSAには感受性があると出ていても効かない場合があるため、注意が必要です。

 1Chakraborti C, et al. Sensitivity of superficial cultures in lower extremity wounds. J Hosp Med. 2010 Sep;5(7):415-20.
蜂窩織炎の主な起因菌と内服抗菌薬のスペクトラム

菌名AMPCCEXCLDMDOXYSTLVFX
レンサ球菌
ブドウ球菌MSSA×
MRSA×××
緑膿菌×××××

※ AMPC(アモキシシリン), CEX(セファレキシン), LVFX(レボフロキサシン), DOXY(ドキシサイクリン), CLDM(クリンダマイシン), ST(ST合剤)

※ スペクトラムは経験的に選択できるかを示しており、実際の感受性は個別の細菌によるため、培養結果や治療経過によって判断すること。
中等症以上では、原則として入院での治療が必要です。それでも在宅で治療する場合は、ブドウ球菌への活性が十分なセファゾリン(セファメジン®)を1日3回静脈注射します。看護師が常勤している施設であれば、1日複数回の静脈注射に対応してくれるかもしれません。困難な場合には、訪問看護と連携して、1日1回の投与で済むセフトリアキソン(ロセフィン®)を選択します。

抗菌薬の投与期間は、炎症所見の消失から3日経過するまでと考えます。目安としては1~2週間で終了するはずですが、それ以上長期化するときは、皮下に膿瘍を形成している、異物があるなどの問題があるかもしれません。その場合、一旦は精査できる医療機関に紹介する方が良いでしょう。

できるだけ患部を挙上させておくと、治癒までの期間が短縮されます。ただし、動脈狭窄による下肢の還流不全がある場合には、患部の挙上は逆効果になるので注意が必要です。

白癬、乾皮症、紅皮症、類天疱瘡などが蜂窩織炎の原因となっていることがあります。それぞれ適切な治療を継続することが必要であり、難治性の場合には皮膚科医に相談することが求められます。
蜂窩織炎の治療

軽症セファレキシン(L-ケフレックス顆粒®)1回1gを1日2回、炎症所見の消失から3日まで経口投与する。
軽症でMRSAの関与を疑うとき、またはβラクタム系抗菌薬が使用できないときクリンダマイシン(ダラシンカプセル®)1回300mgを1日3回、またはドキシサイクリン(ビブラマイシン錠®)1回100mgを1日2回、またはST合剤(バクタ錠®)1回2錠を1日2回、炎症所見の消失から3日まで経口投与する。
緑膿菌の関与を疑うときレボフロキサシン(クラビット錠®)1回500mgを1日1回、炎症所見の消失から3日まで経口投与する。
中等症以上セファゾリン(セファメジン®)1gを8時間おき、またはセフトリアキソン(ロセフィン®)1gを24時間おきに炎症所見の消失から3日まで静脈注射する。ただし、症状が改善したところで残りの日数はセファレキシン等の内服に変更してよい(血培陽性を除く)

再発予防

蜂窩織炎は再発を繰り返すことが多い感染症です。生活の中に原因が隠されており、それを見抜くことが再発予防のカギとなります。
入浴や足浴で清潔を保つことは良いことですが、ゴシゴシ洗わないように指導することが重要です。蜂窩織炎を繰り返す高齢者の中には、清潔のためにナイロンタオルを使用している方が少なくありません。垢スリの愛用者も多いです。糖尿病や神経疾患などで感覚障害がある場合には、特に強くこすってしまう傾向があります。この習慣には中毒性があるようで、自分ではやめられないこともあります。そのため、家族や介護者との連携が求められます。
感覚障害や認知症のある高齢者では、打撲や創傷に無頓着になっている可能性があります。よって、下肢に打撲痕が多発している高齢者には、屋内における足元の片付けや、日常的に靴下で保護するなどの対応が求められます。
四肢や体幹に掻破痕を認める高齢者では、本人の爪を短く切るように指導します。掻破している原因は虫刺症によるものかもしれません。刺し口がないかを確認し、部屋の清掃やリネンの交換ができているかを確認します。もちろん、疥癬を見逃さないことも重要です。
高齢者にとって、ネコとの同居は蜂窩織炎のリスクとなることがあります。明らかに引っ掻かれたり咬まれたりしていなくても、免疫が低下した高齢者の四肢に爪を立てることで感染を引き起こすことがあります。定期的にネコの爪を切るように指導することが大切です。屋外に出ることのあるネコは、野良ネコと接触してノミを持ち帰る可能性があるため危険です。ネコを屋外に出さないことが一番ですが、それができない場合は、定期的にノミ駆除を行うことが重要です。
ネコが大切な暮らしのパートナーとなっている高齢者も少なくありません。引っかかれたり、咬まれたりしていても、飼い猫を取り上げられるのを恐れていることが多いです。そのような場合は深く追求せず、上述のような対応を地道に行うしかありません。
蜂窩織炎を繰り返す患者について、起因菌がレンサ球菌と推定できている場合は、アモキシシリンを経口投与することで再入院までの期間を延長できる可能性があります。一方、ブドウ球菌も関与していると考えられる場合には、ST合剤の経口投与が考えられます。ただし、起因菌が不明であることがほとんどであり、筆者はセファレキシンの経口投与をすることが多いです。
再発予防のための投与期間は、リスクの状態にもよりますが、一般的には1~2ヶ月とされています。もし、リスクが回避できる見通しが立たない場合(例えばネコとの同居が続くなど)、抗菌薬の長期投与が必要になりますが、その場合は腸内細菌など常在菌のセファロスポリン耐性化(菌交代)を避けるため、筆者はドキシサイクリンの経口投与としています。

蜂窩織炎の再発予防

通常セファレキシン(L-ケフレックス®)1回500mgを1日1回経口投与する。
レンサ球菌の関与を疑うときアモキシシリン(サワシリンカプセル®)500mgを1日1回経口投与する。
ブドウ球菌の関与を疑うときST合剤(バクタ錠®)1回1錠もしくは半錠を1日1回経口投与する。
 ドキシサイクリン(ビブラマイシン錠®)1回100mgを1日1回経口投与する。

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