疾患別(プライマリ・ケア医が診る感染症)

2024-09-03結核

結核

結核の特徴

日本の新規結核患者数は減少傾向にあります。2021年には10万人あたり9.2人となり、やっと低蔓延国の仲間入りを果たしました(1。しかし、臨床ではまだまだよく見かける疾患です。
結核は見逃されやすい疾患として知られています。結核には様々な病態がありますが本稿では肺結核を見逃さないためのコツについて解説します。

結核の基本的な病態

結核には活動性結核と潜在性結核の2種類の病態があります。活動性結核は症状を起こし、病状が悪化しますが、潜在性結核は無症状で体の中に潜んでいる状態です。この2つの病態は診断方法も治療法も異なるため、明確に分けて考える必要があります。
一般的に結核に感染してもほとんどは無症状に終わります。結核の感染が成立した患者のうち、10%が生涯のうちに活動性結核を発症するといわれ、そのうち半分が1年以内に発症するとされています(2

結核を疑う状況

結核を疑う症状は15日以上続く呼吸器症状(咳嗽、喀痰、血痰、呼吸困難、発熱、体重減少)ですが、それ以外にも非典型的な例がたくさんあります。特に細胞性免疫不全の患者さん(糖尿病、腎不全、免疫抑制剤使用、HIV)では、その傾向が強くなります。
以下のような状況では、必ず結核を疑って検査を行いましょう[2]
・軽快と悪化を繰り返す肺炎
・抗菌薬治療に反応しない肺炎
・健診などで偶然見つかった肺炎
活動性結核の診断は細菌学的に
結核が疑われる患者には喀痰検査とレントゲン検査を実施します。しかし、活動性結核の診断は、細菌学的検査で行うのが原則です。肺結核であれば喀痰の抗酸菌塗抹検査および培養検査、核酸増幅検査です。培養検査は2-4週間ほどかかるため、すぐに結果が得られるのは塗抹検査と核酸増幅検査です。培養検査は時間はかかりますが、安価かつ感度が高く、結核菌が生きていることを証明できるゴールドスタンダードの検査です。
周囲への感染性を判断するには塗抹検査が適切です。3回連続で喀痰塗抹検査が陰性であれば、感染性はかなり低くなります。

画像検査では上葉の病変や空洞性病変などが結核に特徴的である。しかし、画像検査では活動性病変と陳旧性病変を区別することが出来ない。また胸部レントゲン検査が正常でも感染性のある結核のことがある(後述)画像検査は結核の診断に必須の検査ですが、活動性結核を否定することはできないことは肝に命じておく必要があります。

潜在性結核の診断

潜在性結核の診断にはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)を用います(3。IGRAは細胞性免疫を反映しており、感作されたT細胞から遊離されるインターフェロンガンマを測定しています。特異度が高いため、1回の採血だけで判定可能なメリットがあります。以前はツベルクリン反応が使用されていましたが、判定に個人差があり、現在ではIGRAのほうが推奨されています(3

結核診療のピットフォール

以下によくあるピットフォールをご紹介します。(すべて架空の症例です)

1.誤嚥性肺炎を疑った例
症例:83歳男性、糖尿病あり。高齢者施設入所中で誤嚥性肺炎を繰り返している。今回も誤嚥性肺炎にて入院し、アンピシリン・スルバクタムを投与して改善した。しかし、明日退院という日に再度発熱し、胸部レントゲンでは陰影が拡大していた。入院後初めて喀痰抗酸菌塗抹検査を行ったところ陽性であった。

解説:結核は誤嚥性肺炎のようなふりをしてやってくることもあります。そもそも高齢者は結核の罹患率が高く、糖尿病や腎不全を合併しやすいため結核のハイリスク層です。また誤嚥性肺炎の治療によく使用されるアンピシリン・スルバクタムは結核に部分的に効果があり、一時的に改善することがあります。ニューキノロン薬も同様です。
また誤嚥性肺炎は細菌性肺炎だったとしても活動性結核が併存していることもあります。筆者は結核のリスクのある肺炎患者には必ず抗酸菌検査を1回はおこなうように心がけています。
陳旧性だと思ったら
症例:72歳男性、結核の治療歴あり。今回は左下葉に浸潤影を認め、肺炎の診断にて入院となった。右上葉に空洞影を認めたが、以前と変化を認めなかった。抗菌薬にて治療をおこなったが浸潤影が改善せず、器質化肺炎を疑いステロイドの投与を行った。病状はいったん改善したものの、その後再び悪化し、喀痰抗酸菌塗抹検査が陽性と判明した。
解説:レントゲン検査は結核の検査に必須ですが、レントゲン検査の所見で活動性を否定することはできません。きちんと治療を受けていても再発することはありますし、再感染することもあります。感染性を否定するためには抗酸菌検査を実施することが重要です。
結核の患者にステロイドを投与すると悪化するのは当然ですが、ステロイドの投与理由としては器質化肺炎が多い印象があります。器質化肺炎を疑った際にも喀痰抗酸菌検査を確実におこないましょう。

2.胸部レントゲン写真は正常だった例
症例:37歳女性、先月より乾性咳嗽と喘鳴を認め、気管支喘息と診断された。胸部レントゲン写真は正常であった。吸入薬による治療を受けたが改善しなかった。2ヶ月後に血痰を認め、喀痰抗酸菌検査陽性と判明した。気管支鏡検査にて気管支結核と診断された。

解説:結核の多くは肺野に浸潤影を認めますが、気管支結核や咽頭結核ではレントゲン写真が正常でも排菌していることがあります。胸部CTでもほぼ正常であるため、注意が必要です。呼吸器症状が長く続く患者では、一度は結核を疑って、喀痰抗酸菌検査を提出しましょう。

参考サイト・文献

1) 2021年 結核登録者情報調査年報集計結果について. Available at: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095_00007.html . Accessed 1 January 2024.

2) 青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 東京: 医学書院, 2020.

3) Lewinsohn DM, Leonard MK, LoBue PA, et al. Official American Thoracic Society/Infectious Diseases Society of America/Centers for Disease Control and Prevention Clinical Practice Guidelines: Diagnosis of Tuberculosis in Adults and Children. Clin Infect Dis 2017; 64:e1–e33.

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