感染症の治療

2024-09-11抗菌薬の選択

抗菌薬選択

外来抗菌薬の適正使用の流れ

耐性菌の世界的驚異的拡大に伴い、それを防ぐための対策が世界的な急務の課題となっています。大きな急性期病院を中心とした適正使用や感染対策の強化から始まりましたが、その矛先は外来抗菌薬の適正使用に向けられています。というのも、国内のデータでも、抗菌薬使用料の約90%は内服抗菌薬となっているからです1)。このような流れに、さらに大きな変化が起こりました。それは、感染対策向上加算の抗菌薬適正使用加算を算定する要件に、「直近6か月における外来で処方されるAccess抗菌薬が60%以上またはサーベイランスに参加する診療所全体の上位30%以上である」が加わりました。

<AWaRe分類による抗菌薬適正使用の世界的な流れ>

2019年6月、WHOが抗菌薬使用量から抗菌薬適正使用を判断するための新たな指標をとしてAWaRe(アウエアー)分類を提示しています。これは、使用されている抗菌薬を3つに分類し、耐性菌を作らない適正使用にむけて、その使用量を考えていくための分類になります2)
・Access        :一般的な感染症の第一選択薬
・Watch        :耐性化が懸念されるため限られた適応に使うべき薬
・Reserve    :最後の手段として保存する薬

<内服抗菌薬の分類:AMR臨床リファレンスセンター作成 3)>

内服抗菌薬は以下のような分類となっており、WHOの本分類では抗菌薬全体に占める Accessの割合が60%以上になることを目標に定めています。令和6年度の診療報酬改定に、この基準が盛り込まれました。
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  • https://www.jpca-infection.com/pics/news/news-33-4.jpg
このような外来内服抗菌薬治療の流れはますます加速しそうです。入院するような重症感染症でも内服抗菌薬への早期スイッチのメリットが言われているからです。というのも、入院期間が長いほど、耐性菌を保菌するリスクは高く、また、点滴治療による耐性菌などによるカテーテル関連血流感染症の懸念があります。内服抗菌薬をより上手に使えることはこれからますます重要となりそうです。

外来経口抗菌薬の考え方 4)

外来での経口抗菌薬を考える際にいくつか注意すべきことがあります。
①不必要な抗菌薬処方ではないか:風邪に抗菌薬?、胃腸炎に抗菌薬? ・マクロライドは咳止めではない
②不必要なスペクトラムはないか:第3世代セフェムやニューキノロンなど
③投与期間は短すぎないか、長すぎないか
④安価か
⑤安全か:副作用が少ない抗菌薬か
⑥飲みやすい:1日1回,大きさなど
⑦バイオアベイラビリティー(bioavailability)が十分か

これらの指標のなかでも治療失敗を防ぐために重要な経口抗菌薬のバイオアベイラビリティーに関して,やや深く考えてみたい。経口薬は静注薬と違い,腸管からの吸収という過程を経るため,適切な血中濃度・組織での濃度を維持できるかが重要な指標となります。これを“バイオアベイラビリティー"と呼びます。単位は%で,100%に近いほど静注薬と同等の効果があると考えられます。バイオアベイラビリティーが低ければ,たとえ広域抗菌薬であったとしても使い勝手のよい経口抗菌薬とは言いがたく,むしろ治療失敗の原因となり,ピットフォールにすらなりうるのです。 各経口抗菌薬の特徴 バイオアベイラビリティーをもとに経口抗菌薬を簡単に分類すると,以下のようになります。
 【バイオアベイラビリティーの分類】 
①経口≒静注 ➡経口でのバイオアベイラビリティーが90%以上で,静注薬とほぼ同等
②経口<静注 ➡吸収がよく,血中濃度や組織での濃度も悪くはないが,効果は静注薬ほどではない(60〜90%程度)
③経口≪静注 ➡吸収が悪く,適切な血中濃度や組織での濃度を維持できていない(60%未満)

外来治療では,入院治療と違い,悪化した場合に迅速に対応することが困難なため,③のせいで失敗したという流れは,可能なかぎり避けたいものです。では,具体的に①〜②にあたる経口抗菌薬にはどのようなものがあるかを紹介していきます。 ペニシリン系ではアモキシシリン(90%),セフェム系では第1世代のセファレキシン(99%),キノロン系ではシプロフロキサシン(70%),レボフロキサシン(99%),モキシフロキサシン(90%),テトラサイクリン系ではミノサイクリン(95%),ドキシサイクリン(93%),その他としてST合剤(98%),クリンダマイシン(90%)があります。ほかにもバイオアベイラビリティーが高い経口抗菌薬はいくつかありますが,日本にない薬が多く,あったとしても外来で必要となる可能性は低いでしょう。ここで大切なことは,外来でよく使われる第3世代セフェムは20%前後,マクロライドも30〜50%程度のバイオアベイラビリティーとされ,抗菌薬適正使用の観点からも,使う必要性に関して考え直してもよいかもしれないということです。

内服抗菌薬使用時の注意事項

経口抗菌薬を選択する重要な指標として,バイオアベイラビリティーを紹介しました。内服にかかわらず,抗菌薬選択の三大原則といえば,“安価・安全・狭域"であることを,やはり忘れてはいけません。そのほかにコンプライアンスに関わる“飲みやすさ"(回数・期間・味)も大切な指標でしょう。 ここでは,経口抗菌薬に関するいくつかの注意事項やコツを紹介します。 副作用 外来では,副作用が起こっても迅速に対応できないため,重篤な副作用を生じる可能性のある処方は,可能なかぎり避けたいことは間違いありません。経口抗菌薬による副作用での救急外来受診がほかの薬剤よりも多いことも知られており,一番の対策は「不必要な処方を減らすこと=処方しない」であることです。薬疹や肝機能障害はすべての薬剤で起こりえますが,外来でよく使用されるセファクロルは多い印象で,Ⅲ型アレルギーを引き起こす薬剤としても有名です。ミノサイクリンは高齢者に使用すると,めまい・ふらつきを起こし,転倒の原因となることがあるので,どうしても使用する場合は事前に説明しておくほうがよいでしょう。また,ニューキノロンでも時々,めまいやふらつき,頭痛を訴えることがあり,注意が必要です。 薬物相互作用 ニューキノロンは,NSAIDsとの併用で痙攣を起こしたり,ワルファリンやテオフィリンの血中濃度を高める(マクロライドも同様)ことがあります。また,酸化マグネシウムなどの制酸薬と併用すると吸収が落ちるので,2時間間隔をあけて投与します。 
点滴でのアンピシリン・スルバクタム(ユナシン®)に対応する経口薬であるアモキシシリン・クラブラン酸は,日本では1錠の規格がアモキシシリン250mg・クラブラン酸125mgとなっていて,欧米で使用されている規格であるアモキシシリン500mg・クラブラン酸125mgと異なります。 日本の通常量である1回1錠を1日3回で処方すると,アモキシシリンの量が少なく,治療失敗の原因になります。アモキシシリンの量を通常量にしようとして,1回2錠を1日3回で処方すると,クラブラン酸による嘔気が必発で,内服できないことが多いので,1回量として通常のアモキシシリン・クラブラン酸1錠にアモキシシリン1錠(250mg)を加えて処方するとよいでしょう。ニューキノロンは新しいものほど優れていて,しかも尿路感染症といえばキノロンが使われていた歴史がありましたが、キノロンは大動脈瘤や大動脈解離といった血管疾患の増悪が指摘されています。

<外来で使用する可能性のある内服抗菌薬>

薬剤耐性菌の拡大とはなっていますが、外来治療と考えた場合には、以下の内服抗菌薬で問題となることは基本的にはありません。内服抗菌薬の使用量はますます増える未来が見えており、さらに内服抗菌薬の適正使用が厳しく求められる未来となっています。適正使用はスペクトラムだけではなく、投与量・投与間隔・投与期間・バイオアベイラビリティーなども重要です。特にAWaRe分類による使用状況の把握は、これからますます体制つになりそうです。
一般名
(商品名)
AWaRe分類バイオアベイラビリティー処方(1 回量)
CrCl >
50 mL/min
CrCl
10~50 mL/min
CrCl <
10 mL/min
Amoxicillin
(サワシリン)
Access90%500 mg(2Cp)
(1 日3 回)
500 mg(2Cp)
(1 日2〜3 回)
500 mg(2Cp)
(1 日1 回)
Amoxicillin/
clavulanate
(オーグメンチン)
Access90%/60%750 mg(2 錠)
(1 日3 回)
375〜750 mg
(1〜2 錠)
(1 日2 回)
375〜750 mg
(1〜2 錠)
(1 日1 回)
Cephalexin
(ケフレックス)
Access99%500 mg(2Cp)
(1 日4 回)
250 mg(1Cp)
(1 日1〜3 回)
250 mg(1Cp)
(1 日1 回)
Clarithromycin
(クラリス)
Watch50%200〜400 mg
(1〜2 錠)
(1 日2 回)
200 mg(1 錠)
(1 日1〜2 回)
200 mg(1 錠)
(1 日1 回)
Minocycline
(ミノマイシン)
Watch95%100 mg(1Cp)
(1 日2 回)
投与量・間隔の調整は不要投与量・間隔の調整は不要
Doxycycline
(ビブラマイシン)
Access93%初日:100 mg
(1 錠)(1 日2 回)
2 日目以降:
100 mg(1 錠)
(1 日1〜2 回)
投与量・間隔の調整は不要投与量・間隔の調整は不要
Clindamycin
(ダラシン)
Access90%150〜300 mg
(1〜2Cp)
(1 日4 回)
投与量・間隔の調整は不要投与量・間隔の調整は不要
Ciprofloxacin
(シプロキサン)
Watch70%200〜400 mg
(200 mg 錠を
1〜2 錠)
(1 日2 回)
100〜200 mg
(100 mg 錠1 錠
〜200 mg錠1錠)
(1 日2 回)
200 mg(1 錠)
(1 日1 回)
Levofloxacin
(クラビット)
Watch99%500 mg(1 錠)
(1 日1 回)
[CrCl:20〜50]
初日:500 mg
2 日目以降:
250 mg
(1 日1 回)
[CrCl:20 未満]
初日:500 mg
3 日目以降:
250 mg
(2 日に1 回)
Sulfamethoxazole/
trimethoprim
(バクタ)
Access98%[ニューモシスチス肺炎]
Sulfamethoxazole:
1600 mg/trimethoprim:
320 mg*(4 錠)
(1 日3〜4 回)
[上記以外]
Sulfamethoxazole:800 mg/trimethoprim:160 mg *(2 錠)(1 日2 回)
[ニューモシスチス肺炎]
Sulfamethoxazole:1600 mg/trimethoprim:320 mg*(4 錠)(1 日2 回)
[上記以外]
Sulfamethoxazole:400〜800 mg /trimethoprim:80〜160 mg *(1〜2 錠)(1 日2 回)
専門家にコンサルテーション
Metronidazole
(フラジール)
Access100%500 mg(2 錠)
(1 日3 回)
500 mg(2 錠)
(1 日3 回)
250 mg(1 錠)
(1 日3 回)

参考サイト・文献

1) Muraki Y, Yagi T, Tsuji Y, Nishimura N, Tanabe M, Niwa T, Watanabe T, Fujimoto S, Takayama K, Murakami N, Okuda M. Japanese antimicrobial consumption surveillance: First report on oral and parenteral antimicrobial consumption in Japan (2009-2013). J Glob Antimicrob Resist. 2016 Dec;7:19-23. doi: 10.1016/j.jgar.2016.07.002. Epub 2016 Aug 6. PMID: 27973324.

2) WHO、2021 AWaRe classification‎、
https://www.who.int/publications/i/item/2021-aware-classificationfbclid=IwAR393astihQbTp_DAW7XOkwpH4gRcC3uLHcNg6KioAMZ-plh_0TOrnEtVB4(参照 2024-01-08)

3) AMR臨床リファレンスセンター、全国抗菌薬販売量サーベイランス(アーカイブス)、https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/020/archives.html

4)

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