疾患別(プライマリ・ケア医が診る感染症)

2024-09-03マイコプラズマ

マイコプラズマ感染症

概要

・マイコプラズマという細菌による呼吸器の感染症です
・小児や若い方に多い感染症ですが、中高年でも発症します
・気管支炎や肺炎が主ですが、髄膜炎や脳炎、関節炎といった全身の合併症を起こすことも
・高い熱、色があって濃い痰(タン)、呼吸困難といった「肺炎らしい」症状が軽い一方で、頭痛や頑固なセキが続くことが多いのが特徴です
・患者の口から出た飛沫に含まれるマイコプラズマ菌を吸い込んで感染します
・吸い込んでから発症まで1−4週間と長く、インフルエンザのような爆発的流行は起こしません
・感染の記憶である免疫が長続きしないので、何度でも感染します

症状

・発熱、倦怠感、頭痛で始まり、徐々に乾いた咳が強くなってくる、という経過が典型的です
・咳は次第に痰がからむようになり、熱が下がっても3−4週間ほど長く続くことがあります
・肺炎としては軽症で、自分で歩いて診察にくるためwalking pneumonia とも呼ばれます
・下痢、関節炎、ギラン・バレー症候群など、呼吸器外の症状を伴う場合があります

検査

・短時間で確実に発症早期のマイコプラズマを見分ける方法はありません
・胸部レントゲンで肺に陰影が現れますが、他の病気との区別は困難です
・症状、流行状況とくに家族の感染、身体診察などから医師が判断する方法は有効です
・一般的な採血検査では炎症を示す異常が見つかることがあります
・マイコプラズマを狙った専用検査として、
    ・PCRやLAMP(PCR法に似た方法):ノドや鼻の検体からマイコプラズマのDNAを検出
    ・イムノカード:血液中の抗体を検出する
    ・ペア血清:血液中の抗体を繰り返して測定し、増加の程度を測定する
    ・培養検査:ノドや鼻の検体に含まれるマイコプラズマを増やす
などがあります。PCRやLAMPがもっとも正確ですが、結果が出るまで2−3日かかります。イムノカードで検出する抗体は早期に少なかったり逆に昔の感染を示したりと判断が難しく、ペア血清は時間がかかり、培養検査は確実とはいえません。

治療

・マイコプラズマ感染症は治療しなくても7-10日で自然に治る場合があります
・マイコプラズマそのものを治療する必要がある場合は、効果がある抗菌薬(抗生物質)を投与します。以前は有効だったマクロライド系抗菌薬は効果が落ちているようです
・症状に応じて熱、セキ、頭痛などを抑える薬剤も併用できます
・学校や職場に対して出席停止の義務はありませんが、未治療でセキが多いと感染を起こす原因となるため、登校や出社の再開時期は医師に相談しましょう
・重症になったり全身の合併症が出たりした場合は、医師の指示に従いましょう

予防

・飛沫感染(セキやクシャミで口から飛び出したマイコプラズマ菌を吸い込む)が主な原因なので、セキ、鼻水、クシャミがある人は(マイコプラズマかどうか不明でも)マスクを着用し、こまめに手を洗いましょう
・マイコプラズマ感染を予防するワクチンはありません

プライマリ・ケアにおける診察のポイント

・マイコプラズマ感染症は非常に良くある疾患で、流行時には市中肺炎全体の20〜30%を占めることもあるとされています。
・特に小児が長引く咳を訴える場合や、気管支炎症状はあるが発熱や血液検査異常が目立たない場合は、マイコプラズマ症の可能性を疑う必要があります。
・爆発的な感染拡大はまれですが、学校など濃厚接触環境があれば流行しますので、地域で流行している状況があれば、マイコプラズマ感染症を積極的に鑑別に加えましょう。
・マイコプラズマ感染症は確実な早期診断方法が乏しく、流行状況や症状経過に身体診察と胸部レントゲンを加味した臨床判断が求められます。また、抗体検査やLAMP法などの検査は、特性を把握したうえで適切に利用しましょう。
・マイコプラズマ感染症は自然治癒も多いため抗菌薬は必須でなく、また症例の多くはテトラサイクリンやキノロンを使いにくい小児です。
・マクロライド耐性株の増加が報告されていますが、臨床的には有効例も多く、その場合は2−3日で解熱することが知られています。したがって、現時点でもマクロライド系抗菌薬を第一選択として、安易な広域抗菌薬投与を控えましょう。

参考サイト・文献

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