疾患別(プライマリ・ケア医が診る感染症)

2024-09-03こどもとおとなの 細菌性上気道炎

急性鼻副鼻腔炎

急性鼻副鼻腔炎とは?

急性鼻副鼻腔炎とは、急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で、鼻閉・鼻漏・後鼻漏・咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛・頰部痛・顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義され、副鼻腔炎における急性炎症の多くは急性鼻炎に引き続き生じ、そのほとんどが急性鼻炎を伴っているため、現在は、急性鼻副鼻腔炎(acute rhinosinusitis)とされることが多くなっています。
急性鼻副鼻腔炎には、感染性・好酸球性・歯性・真菌性・航空および潜水性鼻副鼻腔炎があり、それぞれ治療が異なりますが、ここではプリマリケア医がよく対応する市中外来での感染性鼻副鼻腔炎について解説します。

好発起炎菌

好発起炎菌は、肺炎球菌とインフルエンザ菌が2大起炎菌とされ、特に病原性が高いのは肺炎球菌となるため、抗菌薬処方とする際には肺炎球菌をターゲットとした抗菌薬の選択を必ず行う必要があります。

診断&予後&急性鼻副鼻腔炎の抗菌薬処方(Phaseを見極める)

ウイルス性上気道炎(いわゆる風邪症候群)の約90%で急性鼻副鼻腔炎を合併します。そこから細菌性鼻副鼻腔炎へ進展するのは0.5~2.0%でしかありません1)。しかもその約90%は抗菌薬処方なしで7~15日間で自然治癒し、安易な抗菌薬投与はその副作用や耐性菌誘導などのデメリットがメリットに勝るとされています2)3)

急性鼻副鼻腔炎の診断は、単純X線写真では感度・特異度ともに低く、CT/MRIでは感度ばかり高くて特異度が低いため、画像検査だけではできません。局所所見や全身所見の評価なしで急性鼻副鼻腔炎の診断には意味をなさないのです。
CT/MRIなどは手術を要するような合併症を想定する場合や腫瘍やがんなどを想定する場合にのみ検討し、症状・身体所見だけで明らかに判断できる場合や医療体制がない環境下では、単純X線写真も超音波なども診断には基本不要です。
また、鼻汁の色だけではウイルス感染症と細菌感染症との区別はできません4)

 細菌性鼻副鼻腔炎を疑う症状・身体所見(尤度比LR>2.0)は、膿性分泌物(鼻汁)、上顎歯痛、鼻閉改善薬への反応不良、double sickening(二峰性経過)があり,それらを含めた全体としての臨床的印象があるということが挙げられます。有名なこのdouble sickeningも細菌性を必ずしも示唆しないというコホートスタディ5)もあり、頰(上顎部)の痛みや圧痛があれば副鼻腔炎の可能性は高くなりますが、感度は約50%にすぎず6)、その他,膿性鼻汁のみであったり、上顎歯痛,前屈で増悪する疼痛だけでは細菌性鼻副鼻腔炎とする根拠にはなりません。つまり、個々の症状・身体所見の陽性尤度比は高くなく、それだけでは細菌性鼻副鼻腔炎とする根拠として弱すぎることになります。しかし、受診時の症状・身体所見(点)を複数組み合わせると可能性は高くなり、治癒経過・症状持続期間という時間軸(線)も評価に入れて総合的に【抗菌薬処方Phase】を見極めることが重要となります。
症状・身体所見だけで細菌性鼻副鼻腔炎を疑った場合に、副鼻腔画像所見や副鼻腔穿刺排膿所見があるのは30~50%にすぎない7)ともされ、上記の「臨床的な印象」が強くなった場合に、単純X線写真や超音波などの画像検査を組み合わせることで【抗菌薬処方Phase】の見極めの精度をさらに上げることが可能も考えられますが、それは不可欠ではありません。
急性鼻副鼻腔炎【抗菌薬処方Phase】診断基準8)
  • https://www.jpca-infection.com/pics/news/news-29-1.jpg
体表の腔内感染症である急性鼻副鼻腔炎では、関与するのがウイルスか細菌か混合かということよりも、副鼻腔内の感染・炎症を生体の免疫、線毛運動で処理可能なところまで減らし、自然孔を含むOMC(ostiomeatal complex)の狭窄が改善され、自然ドレナージできるまでに抑える状態にするために、抗菌薬処方が必要なPhaseかどうかを見極めることがポイントになります。細菌性鼻副鼻腔炎である=抗菌薬処方Phaseではありません。
実際、症状が重症でない限りは自然治癒することがほとんどで、軽症~中等症であれば7~10日間、中等症以上であれば3~5日間は抗菌薬を処方せずに経過を診て再評価とすることで対応ができます。

治療

【成人:抗菌薬処方Phase】 
一次治療:
アモキシシリン1回500㎎(250mg2錠),1日3回内服,5~7日間(最長10日間)
一次治療不応例:
アモキシシリン1回250㎎+アモキシシリン/クラブラン酸375mgを
1回1錠ずつ,1日3回内服,5~7日間(最長10日間)
β-ラクタム系抗菌薬アレルギーあり:
耐性菌非想定:
ST合剤1回2錠 1日2回 or ドキシサイクリン1回1T(100mg) 1日2回
耐性菌想定:
キノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)
【小児:抗菌薬処方Phase】
一次治療:
アモキシシリン60mg/kg/日 1日3回内服,5~7日間(最長10日間)
アモキシシリン90mg/kg/日 1日2回内服,5~7日間(最長10日間)
一次治療不応例:
アモキシシリン90mg/kg/日 1日3回内服,5~7日間(最長10日間)
アモキシシリン/クラブラン酸96.4mg/kg/日 1日2回内服,5~7日間(最長10日間)
β-ラクタム系抗菌薬アレルギーあり:
耐性菌非想定:
ST合剤(トリメトプリムとして)10mg/kg/日1日2回
耐性菌想定:
キノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)
*国内で唯一小児適応のあるトスフロキサシン耐性化しやすく、臨床効果は怪しいため安易には使用しない。
日本では小児適応はないがLVFXも考慮。
5歳未満:レボフロキサシン20mg/kg/日,1日2回。
5歳以上:レボフロキサシン10mg/kg/日,1日1回。

*日本では、アモキシシリンの鼻副鼻腔炎に対する効能・効果は薬事承認されていませんが、社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例において、原則として、「アモキシシリン水和物【経口】を「急性副鼻腔炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める」ことが示されています。

*第3世代経口セフェム系抗菌薬であるセフジトレン・ピボキシルは倍量であれば理論上、BLNARに効果が期待できる可能性がありますが、カルニチン欠乏症のリスクが乳幼児や高齢者での処方には高いためメリットがデメリットより勝る場合にのみ選択肢に入れる程度で考えます。
*キノロン系抗菌薬は、あくまで超高度耐性菌などの場合など、「それ以外の選択肢がないため仕方なく処方する薬剤」であり、症状がひどいからという理由のみで処方してはいけません。QT延長症候群や末梢神経障害、錯乱、せん妄、幻覚等の精神症状、50歳以上の方のアキレス腱炎や断裂、重症筋無力症の悪化、大動脈瘤・大動脈解離などのリスク、Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群などの大動脈瘤などを起こしやすい小児に対するリスクなど、重大なリスクを伴う抗菌薬でもあるため、2016年5月米国FDA(食品医薬品局)でも急性鼻副鼻腔炎や急性気管支炎、単純性尿路感染症には、他選択肢がある場合は処方するべきでないとしています。
*国内の肺炎球菌は、スムース型肺炎球菌(乳幼児に多い)では、ST合剤やドキシサイクリンに耐性菌が多く、重症例には選択してはいけません。ムコイド型肺炎球菌(成人に多い)では、病原性は強いが耐性菌であることは少ないため、選択肢になり得ます。
*経口抗菌薬での選択肢が難しい場合には、セフトリアキソン点滴静注であれば、肺炎球菌・インフルエンザ菌ともに耐性菌をもカバーしているため、対応可能となります。

乳幼児(6歳未満)急性鼻副鼻腔炎に抗菌薬はいるのか?

平均5歳、症状が10~28日の上気道症状,膿性鼻汁や上顎・前額部の痛みや発熱がある患者を対象にしたランダム化比較試験において、アモキシシリンの内服とプラセボ(双方ともに生食鼻うがいあり)のデータをみると治療効果に差がなく、抗菌薬による下痢の副作用のほうが目立ったという報告9)があります。また、成人と比べ6歳未満となる乳幼児は自然口が広く開大しており、副鼻腔は一洞化しているため、解剖的にドレナージが良好な状態となっているという特徴を考慮すると,乳幼児(6歳未満)の細菌性鼻副鼻腔炎には,眼窩内合併症や頭蓋内合併症を伴うような重症感染症でない限り,抗菌薬は不要であり、成人と比べ,【抗菌薬処方Phase】はかなり少ないと考えられます。また,これらの重症合併症は、抗菌薬投与で予防することはできないため、一応、念のためと抗菌薬を処方することはデメリットが勝ることになります。

緊急性の高い複雑性急性鼻副鼻腔炎:

合併症には、眼窩内合併症(眼窩蜂窩織炎,眼窩骨膜下膿瘍)、頭蓋内合併症(骨膜下膿瘍、硬膜下膿瘍、髄膜炎、脳膿瘍、海綿静脈洞血栓症、骨髄炎、髄膜炎)、 Pott’s puffy tumor(前頭骨膜下膿瘍)があります。
頭蓋内合併症の原因は、前頭洞の急性炎症からの波及がほとんどであり、特に10代の若い男性に多く、7歳未満ではほとんどみられません。
緊急性のある合併症を伴う複雑性急性鼻副鼻腔炎を疑われる場合には、緊急手術対応の可能な耳鼻咽喉科・脳神経外科への紹介が必要になります。

参考サイト・文献

1) Barry A,et al. Am Fam Physician. 2020 Jun 15;101(12):758-759. 

2) Burgstaller JM, et al. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2016 May;273(5):1067-77. 

3) Lemiengre MB, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Sep 10;9(9)

4) Lacroix JS, et al. Acta Otolaryngol (Stockh). 2002;122(2):192-196.

5) Autio TJ, et al. Laryngoscope. 2015 Jul;125(7):1541-6. 

6) Killingsworth SM, et al:Laryngoscope. 1990; 100(9): 932–7.

7) Ebell MH, et al. Ann Fam Med. 2019 Mar;17(2):164-172

8) 永田 理希著.Phaseで見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた

9) Ragab A, et al :Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2015; 79(12) : 2178-86.

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