症状
2024-09-03発熱
発熱
発熱の定義
体温の変動
一般的に体温が上昇することを発熱と呼びますが、医学的には視床下部の体温設定点の上昇によって起こる発熱と、体温設定点の上昇を伴わない異常な体温上昇(うつ熱や熱中症など)である高体温の2つに分かれます。腋窩温や鼓膜音の信頼性は深部体温と比較すると低下しますが、簡便であり、プライマリ・ケアの現場では頻用されます。健常者では通常は早朝に比べ夕方に測定すると1.0℃高く、夕方の測定にて腋窩温で37.5℃までは病的意義は乏しいと言われます。通常の体温は約35.3〜37.7℃の範囲で、外来患者と入院患者の両方の研究では口腔内体温(深部体温で)平均は36.7℃です。1)何度以上の体温を発熱と定義するかという厳密な統一基準はありませんが、早朝に口腔温度で37.2℃ある場合や午後の温度が37.7℃を超える場合、または1日の体温変動が1℃以上の場合は有意な発熱である可能性があります。2)
高体温症
発熱と高体温の区別は容易ではありませんが、高体温症では生命に危険を及ぼす場合もあり、迅速な診断が求められ、高熱環境の暴露や薬剤歴などの発症前の具体的な状況が原因の特定に役立ちます。身体診察も重要であり、特に熱射病や薬剤による発汗抑制の場合、乾燥した皮膚の状態が手がかりとなります。甲状腺機能亢進症などの特定の代謝性疾患の存在や、発汗や血管拡張を阻害することで体温調節を妨げる一部の薬剤 (アトロピン)の使用歴にも注意が必要です。向精神薬の開始や中断・再開などによって起こる悪性症候群や、麻酔薬による代謝亢進反応により生じる悪性高熱症は時に致命的になるので、見逃さないことが大切です。
発熱の機序
発熱の原因となる物質は外因性と内因性の二つに分類されます。外因性発熱物質は主に微生物やその産生物から来るもので、グラム陰性菌によって生成されるエンドトキシンなどが例として挙げられます。これらはToll様受容体を介して発熱を引き起こします。3)また、グラム陽性菌は、トキシックショック症候群毒素(TSST-1)などの強力な発熱物質を生成します。これらの毒素は「スーパー抗原」として機能し、免疫系を過剰に活性化させて、発熱性サイトカインの放出を促すことによって、微量であっても高い発熱反応を引き起こすことが知られています。4)内因性発熱物質は体内で生成されるサイトカインで、IL-1、IL-6、TNFなどがあり、発熱性サイトカインとも呼ばれ、Toll様受容体の活性化により生成され、免疫、炎症、造血機能を調節します。5)
IL-1、IL-6、TNFなどにより視床下部でのPGE2の合成が促され、体温調節中枢に接続された神経終末が活性化され、視床下部の体温の設定値が変化し、発熱が起こります。6)
これらのプロセスは、感染症に対する体の自然な防御機構の一部であり、発熱を引き起こすことで、病原体の増殖を抑えるとともに、免疫システムの効率を高めることが示唆されています。
IL-1、IL-6、TNFなどにより視床下部でのPGE2の合成が促され、体温調節中枢に接続された神経終末が活性化され、視床下部の体温の設定値が変化し、発熱が起こります。6)
これらのプロセスは、感染症に対する体の自然な防御機構の一部であり、発熱を引き起こすことで、病原体の増殖を抑えるとともに、免疫システムの効率を高めることが示唆されています。
プライマリ・ケアにおけるポイント
発熱への対応
発熱により白血球の貪食能が亢進して細菌やウイルスの増殖を抑制する働きもありますが、基礎代謝が上がり酸素消費量が増加したり、発汗による脱水の原因になったりすることもあります。また解熱剤の使用により、熱の経過が修飾され診断においての貴重な体温変動の情報が隠されたり、薬剤性の有害事象が出たりする可能性もあります。薬剤使用による解熱のメリットとデメリットを考慮した上で、状況に応じて解熱剤の投与を考えます。7)使用薬剤の選択としては、腎機能障害や消化器障害などの有害事象のリスクが高いNSAIDよりもアセトアミノフェンを第一選択として推奨します。
発熱の原因
発熱に対しては対症療法のみに終始することなく、原因となる病態や疾患の診断とそれに対する介入が必要となります。発熱をきたす原因は多岐にわたり、鑑別に際しては病歴聴取と身体診察が大切ですが、病歴聴取では発熱+αの症状に着目することが重要です(表1)
発熱の原因は、(1)感染症、(2)炎症性疾患、(3)腫瘍、(4)その他にわけて考えると良いでしょう。一般に原因として最も多いものは感染症で、プライマリ・ケアの現場では、基礎疾患のない健常人に関しては、ウイルス感染症(上気道炎、胃腸炎)や比較的単純な細菌感染症(急性中耳炎、A群β溶血性レンサ球菌咽頭炎、副鼻腔炎、膀胱炎など)が多く、病歴聴取と身体診察によって診断が可能ですが、必要に応じて検査を行います。基礎疾患がある方や高齢者に関しては、肺炎や腎盂腎炎や胆嚢炎など、ときに入院が必要となる細菌感染症の割合が高くなりますが、特にステロイドや免疫抑制剤を使用している方に対しては、真菌や結核など細菌感染症以外にも注意が必要です。
発熱の原因は、(1)感染症、(2)炎症性疾患、(3)腫瘍、(4)その他にわけて考えると良いでしょう。一般に原因として最も多いものは感染症で、プライマリ・ケアの現場では、基礎疾患のない健常人に関しては、ウイルス感染症(上気道炎、胃腸炎)や比較的単純な細菌感染症(急性中耳炎、A群β溶血性レンサ球菌咽頭炎、副鼻腔炎、膀胱炎など)が多く、病歴聴取と身体診察によって診断が可能ですが、必要に応じて検査を行います。基礎疾患がある方や高齢者に関しては、肺炎や腎盂腎炎や胆嚢炎など、ときに入院が必要となる細菌感染症の割合が高くなりますが、特にステロイドや免疫抑制剤を使用している方に対しては、真菌や結核など細菌感染症以外にも注意が必要です。
発熱+αの症状 | 頻度の高い疾患 | 注意すべき疾患 |
---|---|---|
咽頭痛・鼻水・咳嗽 | 感冒 副鼻腔炎(鼻汁・咳嗽) | 扁桃周囲膿瘍(咽頭痛) 急性喉頭蓋炎(咽頭痛) 亜急性甲状腺炎(甲状腺痛) 高安病(頸動脈痛)など |
咳嗽(喀痰)・呼吸困難 | 肺炎 | 結核・悪性リンパ腫 血管炎 |
腹痛・嘔吐・下痢 | 急性胃腸炎 胆のう炎(腹痛・嘔吐) 虫垂炎・憩室炎・腸閉塞 | 炎症性腸疾患 胃がん・膵がん・胆のうがん 血管炎 |
背部痛・腰痛 | 腎盂腎炎 | 化膿性性脊椎炎・脊椎カリエス・腸腰筋膿瘍・脊椎転移 |
胸痛 | 胸膜炎 | 肺塞栓・心筋炎・心膜炎 |
関節痛 | ウイルス感染症・痛風・偽痛風 | 各種膠原病 悪性腫瘍関連関節症 |
頭痛 | ウイルス感染症・髄膜炎 | 脳炎・脳転移・血管炎 |
全身倦怠感 | ウイルス感染症 炎症性疾患一般 | 悪性腫瘍 副腎不全・下垂体不全 |
体重減少 | 炎症性疾患一般 | 悪性腫瘍(特に消化器系) |
寝汗 | 炎症性疾患一般 | 結核・悪性リンパ腫 |
排尿痛・頻尿・残尿感 | 膀胱炎・腎盂腎炎 | 複雑性尿路感染症 |
リンパ節腫脹 | ウイルス感染症(後頸部) 溶連菌感染症(前頸部) | 膠原病一般 結核性リンパ節炎 猫ひっかき病 |
皮疹 | ウイルス感染症 薬疹 | リケッチア感染症 膠原病一般 感染性心内膜炎(Osler結節・Janeway lesions) |
皮膚発赤 | 蜂窩織炎・丹毒 | 壊死性筋膜炎 |
表1 発熱+αの症候から考える頻度の高い疾患と注意すべき疾患
(あくまで代表的な例で鑑別診断全てを網羅するものではありません)
その他、家族や職場・学校など周りの人の体調、渡航歴や旅行歴(温泉・森林・河川など)、生肉や衛生状況の悪い飲食物の摂取歴、ペット飼育歴や動物との接触歴・虫などによる刺咬歴、サプリメントを含めた薬剤歴などの情報も大きな手掛かりになります。
身体診察では、まずはバイタルサインが重要です。熱の上昇の割に脈拍の上昇が少なければ比較的徐脈となり、薬剤熱、異型肺炎、腸チフスなどの事前確率が上がってきます。8)また、簡易シェロング試験で血圧の低下や脈拍の上昇などの脱水の所見がないかどうかの評価も重要です。他の身体診察に関しては、必ずしも常に頭の先から足の先まで診察する必要はなく、病歴で事前確率が高いと思われた疾患を頭において、特徴的な所見を探しに行く姿勢で良いのですが、病歴から疾患が想起できなければ、眼球結膜、咽頭、甲状腺、リンパ節、胸部聴診、腹部触診、皮膚、関節、血管雑音など可能な限り、丁寧に診察することが重要です。
身体診察では、まずはバイタルサインが重要です。熱の上昇の割に脈拍の上昇が少なければ比較的徐脈となり、薬剤熱、異型肺炎、腸チフスなどの事前確率が上がってきます。8)また、簡易シェロング試験で血圧の低下や脈拍の上昇などの脱水の所見がないかどうかの評価も重要です。他の身体診察に関しては、必ずしも常に頭の先から足の先まで診察する必要はなく、病歴で事前確率が高いと思われた疾患を頭において、特徴的な所見を探しに行く姿勢で良いのですが、病歴から疾患が想起できなければ、眼球結膜、咽頭、甲状腺、リンパ節、胸部聴診、腹部触診、皮膚、関節、血管雑音など可能な限り、丁寧に診察することが重要です。
参考サイト・文献
1) Obermeyer Z, Samra JK, Mullainathan S. Individual differences in normal body temperature: longitudinal big data analysis of patient records. BMJ 2017; 359:j5468.
2) Mackowiak PA, Wasserman SS, Levine MM. A critical appraisal of 98.6 degrees F, the upper limit of the normal body temperature, and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich. JAMA 1992; 268:1578.
3) Bone RC. Gram-negative sepsis: a dilemma of modern medicine. Clin Microbiol Rev 1993; 6:57.
4) Kum WW, Laupland KB, Chow AW. Defining a novel domain of staphylococcal toxic shock syndrome toxin-1 critical for major histocompatibility complex class II binding, superantigenic activity, and lethality. Can J Microbiol 2000; 46:171.
5) Mackowiak PA, Wasserman SS, Levine MM. A critical appraisal of 98.6 degrees F, the upper limit of the normal body temperature, and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich. JAMA 1992; 268:1578.
6) Dinarello CA. Thermoregulation and the pathogenesis of fever. Infect Dis Clin North Am 1996; 10:433.
7) Holgersson J, Ceric A, Sethi N, et al. Fever therapy in febrile adults: systematic review with meta-analyses and trial sequential analyses. BMJ 2022; 378:e069620.
8) Seneta E, Seif FJ, Liebermeister H, Dietz K. Carl Liebermeister (1833-1901): a pioneer of the investigation and treatment of fever and the developer of a statistical test. J Med Biogr 2004; 12:215.
2) Mackowiak PA, Wasserman SS, Levine MM. A critical appraisal of 98.6 degrees F, the upper limit of the normal body temperature, and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich. JAMA 1992; 268:1578.
3) Bone RC. Gram-negative sepsis: a dilemma of modern medicine. Clin Microbiol Rev 1993; 6:57.
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8) Seneta E, Seif FJ, Liebermeister H, Dietz K. Carl Liebermeister (1833-1901): a pioneer of the investigation and treatment of fever and the developer of a statistical test. J Med Biogr 2004; 12:215.
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